東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)281号 判決
一 原告主張の主位的請求の原因(一)ないし(三)の各事実については、当事者間に争いがなく、右事実によれば、第二決定は、その前提とした事実の認定に誤りがあり、結論を誤つた違法があるというべきであるから、これを取り消さなければならない。
二 よつて、第二決定の違法を理由にその取消を求める原告の本訴主位的請求を正当として認容することとする。
〔編註〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。
二 原告主張の主位的請求の原因
(一) 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四三年一二月一二日、昭和四〇年七月二七日にした特許出願を、名称を「電気的シヤツタの記憶式限時装置を有するカメラ」とする考案(以下「本願考案」という。)についての実用新案出願に変更したが、昭和四四年九月五日拒絶査定を受けたので、昭和四五年一月一四日審判の請求(昭和四五年審判第四九〇号事件)をし、昭和四六年一〇月七日付で明細書の全文補正(以下「第一補正」という。)、昭和五〇年三月八日付で明細書の一部補正(以下「第二補正」という。及び同年五月二三日付で明細書の全文補正(以下「第三補正」という。)の各手続補正をし、昭和五一年八月一八日実用新案登録出願公告されたが、実用新案登録異議の申立を受け、昭和五二年一一月一八日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決を受けた。そこで、原告は、昭和五三年二月二二日、右審決の取消請求の訴を提起(東京高等裁判所昭和五三年(行ケ)第一八号事件)し、昭和五五年三月三一日、右審決を取り消す旨の判決を得た。ところが、特許庁は、昭和五五年八月一二日、第一補正及び第二補正を含む第一補正を却下する旨の決定(以下「第一決定」という。)並びに第三補正を却下する旨の決定(以下「第二決定」という。)をし、右各決定の謄本は同月一九日、原告に送達された。
(二) 第二決定の理由の要点
昭和五〇年五月二三日付の手続補正によれば、その補正明細書における実用新案登録請求の範囲の記載では、「電気回路は記憶用コンデンサ(記憶回路を形成するもの)とは異なる他の限時用コンデンサを有する時定数回路を有して」いる点を本願考案の構成要件とし、併せて前記構成要件による作用効果を、「考案の詳細な説明」の欄に記載している。
ところで、本願(特許出願からの変更出願)の原特許出願の出願当初の明細書と図面には、その明細書第三ページに、従来技術における限時回路は「CR時定数素子による限時回路その他適当な限時回路」であるとし、同第四ページに、記憶回路は「コンデンサの充電量で行う方式あるいはトランジスタ、真空管等を用いた記憶方式等電子工学的に公知のものを用いる。」と記載されているだけであり、かつレリーズ時における記憶回路と限時回路との接続による限時動作がどのようにされるかの具体的な動作状態について全く記載されていない。
さらに、本願の変更出願当初の明細書と図面では、記憶回路はコンデンサから成るものとし、レリーズ時の限時動作について、第五ページ及び第六ページ(実用新案登録請求の範囲)に、上記コンデンサに記憶された充電電荷は限時回路(電気回路)中に設けた放電回路により放電され、この放電電位により限時回路は作動する旨の記載があるだけである。
そこで、以上のような明細書記載の事実を併せてみるに、本願考案は、記憶回路がコンデンサ(記憶用)を有するものとする点は認められるとしても、電気回路(限時回路)が上記記憶用コンデンサとは異なる他の限時用コンデンサを有する時定数回路であつて、前記両回路が組み合せて構成されていたものと積極的に認めるに足る記載は、原特許出願の出願当初の明細書及び図面並びに変更出願当初の明細書及び図面に明記されていないし、かつ、それらから自明の事項とも認められない。
したがつて、前記手続補正は、本願(変更出願)の原特許出願の出願当初の明細書並びに変更出願当初の明細書の各要旨を変更するものであるので、実用新案法第四一条の規定により準用する特許法第一五九条第一項の規定によりさらに準用する同法第五三条第一項の規定により却下すべきものとする。
(三) 第二決定を取り消すべき事由
第二決定は、「電気回路(限時回路)が上記記憶用コンデンサとは異なる他の限時用コンデンサを有する時定数回路であつて、前記両回路が組み合せて構成されていたものと積極的に認めるに足る記載は、原特許出願の出願当初の明細書及び図面並びに変更出願当初の明細書及び図面に記載されていないし、かつ、それらから自明の事項とも認められない。」としているが、第三補正にかかる明細書の実用新案登録請求の範囲に構成要件とされている「電気回路は記憶用コンデンサとは異なる他の限時用コンデンサを有す」ることは、本願の変更出願の当初明細書に開示されている。
(四) 第二決定の違法性
したがつて、第二決定は、その結論の前提となる事実の認定を誤つた違法があるから、これを取り消すべきものである。
三 原告主張の予備的請求の原因
(一) 特許庁における手続の経緯
前記二の(一)のとおり。
(二) 第一決定の理由の要点
昭和四六年一〇月七日付の手続補正によれば、その補正明細書における実用新案登録請求の範囲の記載では、(A)「電気回路は記憶用コンデンサ(記憶回路を形成するもの)とは異なる他の限時用コンデンサを有するCR時定数回路を有して」いる点及び(B)「レリーズに際して前記記憶回路を光電変換部から切り離して、記憶用コンデンサに保持された充電電位を前記電気回路入力に印加し、充電電位レベルに相応して、該回路中のCR時定数回路を限時動作させる」点を、本願考案の構成要件とし、併せて「考案の詳細な説明」の欄に、前記構成要件による作用効果を記載し、また、昭和五〇年三月八日付の手続補正では、前記構成要件(B)を、(B´)「レリーズに際して前記記憶回路を光電変換部から切り離して前記電気回路と接続し、記憶用コンデンサに記憶された充電量に応じて前記電気回路中のCR時定数回路を限時動作させる」点となしたものである。
ところで、本願(特許出願からの変更出願)の原特許出願の出願当初の明細書と図面には、その明細書第三頁に、従来技術における限時回路は「CR時定数素子による限時回路その他適当な限時回路」であるとし、同第四ページに、記憶回路は、「コンデンサの充電量で行う方式あるいはトランジスタ、真空管等を用いた記憶方式等電子工学的に公知のものを用いる。」と記載されているだけであり、かつレリーズ時における記憶回路との接続による限時動作がどのようになされるかの具体的な動作状態について全く記載されていない。
さらに、本願の変更出願当初の明細書と図面では、記憶回路はコンデンサから成るものとし、レリーズ時の限時動作について、第五ページ及び第六ページ(実用新案登録請求の範囲)に、前記コンデンサに記憶された充電電荷は限時回路(電気回路)中に設けた放電回路により放電され、この放電電位により限時回路は作動する旨記載している。
そこで、以上のような明細書記載の事実を併せてみるに、本願考案は、前記構成要件(A)について、記憶回路がコンデンサ(記憶用)を有するものとする点は認められるとしても、電気回路(限時回路)が前記記憶用コンデンサとは異なる他の限時用コンデンサを有する時定数回路であつて、前記両回路が組み合せて構成されていたものと積極的に認めるに足る記載及び前記構成要件(B)又は(B´)についての記載は、原特許出願の出願当初の明細書及び図面並びに変更出願当初の明細書及び図面に明記されていないし、かつ、それらから自明の事項とも認められない。
したがつて、前記各手続補正は、本願(変更出願)の原特許出願の出願当初の明細書並びに変更出願当初の明細書の各要旨を変更するものであるので、実用新案法第四一条の規定により準用する特許法第一五九条第一項の規定によりさらに準用する同法第五三条第一項の規定により却下すべきものとする。
(三) 第一決定を取り消すべき事由
第一決定は、第一補正が本願考案の構成要件とした(A)及び(B)の点並びに第二補正が本願考案の構成要件とした(B´)の点が、本願の原特許出願の出願当初の明細書及び図面並びに本願の変更出願当初の明細書及び図面に明記されていない、としているが、右(A)、(B)及び(B´)の点は、前記各明細書及び図面に、当業者に極めて容易に理解される程度に記載されている。
(四) 第一決定の違法性
したがつて、第一決定は、その結論の前提となる事実の認定を誤つた違法があるから、これを取り消すべきものである。
四 請求の原因に対する被告の認否及び主張
(一) 主位的請求の原因(一)ないし(三)の各事実は認める。
(二) 予備的請求の原因(一)及び(二)の各事実並びに同(三)のうち(A)の点が変更出願の当初明細書に記載されていることは認める。同(三)のその余の事実及び(四)の事実は争う。第一決定には、これを取り消すべき違法の点はない。